T2U音楽研究所~はてな置き場(旧:私を支える音楽と言葉)

T2U音楽研究所/臼井孝のはてな版です。

6・「頑張れ!」は時に残酷

 私は29歳の時に一大決心をし、音楽業界に転職して以来、人より10年近く遅れを取ったと自分に言い聞かせて、日々、どうすれば自分だけの仕事ができるだろうか、どうすれば人に必要とされるだろうか、と試行錯誤してきました。
 そうして31〜32歳くらいから分析の仕事を指名されるようになってきて、日々忙しくなってきたのですが、まだ人並みではない、まだ人並みではない、と自分が出遅れたことがコンプレックスとなって、月曜日〜日曜日まで、毎日働いておりました。
 それで、その頃に急に気にかかり始めたのが、「頑張れ!」という言葉だったのです。多分、相手は私を励まそうと言ってくれてたのだと思いますが、毎日休日も返上して自分らしい仕事をする為にあれこれと仕事や仕事の糧となるような分析や資料作りをしているのに、それでも「頑張れ!」と言われると、
 「もう、こんなにやっているのに、まだ頑張らないと自分はダメなの!?」
と時に憤慨したり、時に落胆したりしてしまいました。そうです。

「頑張れ!」という言葉は時にとんでもなく残酷な言葉
だというのが身に沁みて分かりました。そう感じて以来、私は一所懸命生きている人に「頑張れ」という言葉はいっさい口にしていません。そんな言葉よりも、その人が人に語りたくて仕方ないこと、例えば仕事の愚痴とか、模索している点とかを話してもらって、また私自身も勉強するようにしています。

 そう思った直後、仕事で関わった柴田淳さんの「それでも来た道」に

「もう頑張らなくてもいい と誰か言ってくれないか」

という一節で、もう胸にグサっとささりましたね。数多くのエールソング
−根拠もなしに、頑張ればいつかなんとかなるよ、とひたすら前向きな歌−
が巷に溢れている中で、この歌こそ頑張っている人の心に響く歌だと思いました。

 また、歌手の本田美奈子.さんが天国に召されたときに、岸谷五郎さんが、弔辞をされ

「美奈子ちゃんは、ずっと頑張っていたのに、“頑張れ、頑張れ”と言ってごめんね」
という一節に私はただただ涙が止まりませんでした。

とにかく、頑張っている人は既に頑張っているのですから、そういう人たちの気持ちを受け止めるだけの寛容な心を常日頃持っていたいなと思います。