233・需要なき名作たち
2006年3月15日に発表された、中村美律子20周年作品で、演歌界では制作面でも賞レースでも大きな影響力を及ぼしてきたスポーツニッポンの音楽担当出身で、俳優・評論家としても活躍する小西良太郎の全面プロデュース作品。そんなこともあり、お情けのように日本レコード大賞・企画賞を受賞している。
賞レースのセンスってさほど共感しないし、またマルチな才能を持つ人の器用さも感心こそすれど、感動とは程遠いものが概してあるのだけれど、これは物凄く丁寧な制作ぶりに感心も感動もした。
座頭市、忠太郎、森の石松、吉良の仁吉、城戸熊太郎などなど歴史や物語上の男たちのその前後を描いた作品もあれば、その日暮らしの男、後継ぎのいない男、親を知らずに生きる男など、(おそらく)昭和生まれの耐える男を描いた作品もあり、そして11人の男の生き様を並べて、(どんな男も受け入れる)女が港で待っているという優しい歌をラストにポツンと置く構図も巧い。
ただ・・・、演歌のオリジナル・アルバムって、本当に売れない。氷川きよしが売れているが、あれは氷川君ありきだし(もし内容ありきなら、毎回同じ程度の売上げが、作品の内容によって変わるはず)、J-POPのお店でも全曲集アルバム中心だし、演歌に強いお店は、シングルカセット中心で、アルバム楽曲はカラオケにない楽曲が多いこともあり、かなり敬遠されている。中村美律子は、まだ紅白歌合戦に出る前は、関西人しか知らない名歌手、としての反骨精神を追い風にして、オリジナルアルバムがカセットチャートで連続TOP20入りするほど売れる奇跡的な歌手(今なら、井之頭公園の歌姫として知られるあさみちゆきも似たパターンでアルバム型の歌手)だったが、それでもそこから20年経過し、オリジナル作も8年ぶりというほど遠ざかっていて、勿論、これも全く売れなかった。リード曲「夜もすがら踊る石松」なんて、ヒップホップダンサーを引き連れて演歌を歌うというスタイルで、彼女のキャリアでも最低レベルの売上げ。アルバム発売後のリカットシングルの方が数倍売れたほどだ。
↑確かに、ジャケットもやり過ぎ(笑)でも、全曲オーケストラ演奏でお金がかかってるし、作家陣も阿久悠、ちあき哲也、もず唱平、吉岡治、喜多條忠、里村龍一、弦哲也、岡千秋、杉本眞人、船村徹など名曲の実績ある面々ばかり。勿論、中村美律子の歌もいつも以上に感情過多で聞かせる。こういう“需要なき名作”が演歌界には多数見られる。今の自分には、それを世間に知らしめる力はないけれど(せいぜい、演歌歌手のJ-POPカバーの廃盤音源集くらい)、まずはニュートラルに聴く力を持っていたいものだ。