T2U音楽研究所~はてな置き場(旧:私を支える音楽と言葉)

T2U音楽研究所/臼井孝のはてな版です。

474・柏原芳恵『アリエス』収録曲解説より

アリエス

近年、柏原芳恵のEMI時代の4枚のCDを入手した。『アリエス』『愛愁』『Lover's Sunset』『YES,I LOVE YOU(配信されず)』のうち、私は『愛愁』が断然好きで、スタッフが彼女をポスト“テレサ・テン”としてしっかり育てようとしていたことがよく分かる。しかし、セールスが激減したように、やはりこれはアイドルファンにはあまりに地味で重いと感じることだろう。アイドルファンにも演歌・歌謡曲ファンにもそっぽを向かれた名作で、まさに、音楽と先入観/イメージの問題の根深さを実感する。

その点、その前作『アリエス』は全作詞・阿久悠で言葉の重みを感じさせつつも、音楽的にはロックからニューミュージック、アンビエントなポップスとかなり挑戦しているのが興味深い。このアルバムには、全曲のライナーノーツがなぜか“英語まじりのローマ字”という不思議な言語で書かれているのだが、ちょっと読みづらいので日本語に直してみた。以下、記載してみる。 (※決して私の感想そのものではありませんので、ご注意ください!)


美少女党阿久悠/林哲司/萩田光雄
今回のアルバムの中で最もロック色の強い楽曲。彼女のこれまでの歌の中では、比較的重めのリズムだが、乗りに乗って歌っている。彼女の胸の鼓動が直接伝わってきそうなLIVEな仕上がりとなっている。

くちびるかんで純愛阿久悠/林哲司/萩田光雄
軽快なサウンドに乗せて、生き生きとした彼女のボーカルが聴こえてくる。一つの言葉の五感を大切にした歌が、甘く、時には苦しく、我々の耳に入ってくる。グロッケンとマリンバのシンセがリズミカルで歯切れよく、効果的に使われている。

夏の夜は一度ほほえむ阿久悠/Frankie.T/萩田光雄
誘惑的なシンセのブラスや、挑発的なギターに乗せて、激しく躍動的な彼女のボーカルが魅力。彼女の荒々しい息づかいまでもが伝わってくる。シーケンシャルなシンセのフレーズが彼女のボーカルと共に耳に残る。

ストレンジャー阿久悠/林哲司/萩田光雄
 パーカッションが細かくリズムを刻み、空想的なムードに浸りながら、遠い所に行った気分になれる涼しげなサウンド。 彼女の夢見ごちなボーカルとコーラスが、そんな気分をさらに高めてくれるとびきり上等なリゾート・ポップス。

シャワーの下で阿久悠/萩田光雄/萩田光雄
シンプルなピアノの伴奏に乗せて始まる、彼女のか細い、切ないボーカルを聴いてほしい。 心の高揚を敢えて抑えた、このボーカルに我々はむしろ大きな気持ちの揺らぎを感じざるを得ない。

不良の掟阿久悠/Frankie.T/船山基紀
言葉をぶつけてくるような、いわゆるツッパリ風の歌い方に、これまでの彼女を知る者は驚くかもしれない。繰り返される彼女のボーカルと、コーラスとの掛け合いが聴きどころのひとつ。 サンプリングのドラムの音が力強く、サウンドの大きな要となっている。

A・r・i・e・s阿久悠/林哲司/船山基紀
触れるだけで壊れてしまいそうなそんな心情をタイトに、そしてソフトに歌い上げた楽曲。特に「アリエス」のハイトーンが魅力的。ダルシマーの切ない響き、ストリングス−シンセの切れのある音色がポイント。

ガラスの鍵阿久悠/船山基紀/船山基紀
スピード感あふれるバックに乗って、彼女の自分自身に言い聞かせる様が、一瞬の隙もないボーカルに反映している。彼女の持つ心の痛みが、そえゆえに何倍にも強まって伝わってくる。 サンプリングのガラスの音が、サウンドエフェクトとして使われている。

私のすべて阿久悠/林哲司/船山基紀
 サビの一連のフレーズの歌い方が聴きどころ。全体に広がるソフトなブラスシンセが優しく、彼女のボーカルを包んでくれている。 地味ながらも今後の彼女の方向性の一つを示した楽曲。

最後のセーラー服阿久悠/林哲司/船山基紀
サビの済みきった美しく伸びたフレーズが特に印象的。それを活かすための前半の丁寧な歌い回しが好感を持てる。戸惑う女の子の気持ちを表現するには、十分過ぎるほどだ。
シンプルで無機的とも言えるサウンドによりかえって、彼女の歌から詩心が伝わってくる。

参加ミュージシャン:
ドラム:岡本郭男、宮崎まさひろ
ベース:美久月千晴、富倉安生、
ギター:松下誠角田順、今剛
キーボード:山田秀俊、オガワラルミコ、エルトン永田(一郎)、倉田信雄
ストリングス:ジョー加藤グループ
コーラス:木戸やすひろ、比山貴咏史(清)、平塚文子、広谷順子
シンセサイザー・プログラミング:助川宏、梅原篤、船山基紀、坂下ヨシマサ、伯耆弘徳

作家陣のみならず、ミュージシャンも超豪華。意外な注目ポイントは現在、算命学者や哲学者として活躍しているという伯耆弘徳氏が4曲で参加している事。しかも、楽曲ごとに(ほうき・まさのり/ひろし/ひろゆき/ひろのり)と記載が異なるのも意味深。(もしかして4兄弟とか?)

ともあれ、じっくり聴けるポップスで、彼女のアルバムの中でもTOP5に入りそうなほどコンセプチュアルな作品なので、どこかでチェックしてみては?ちなみに、ダウンロードでは1500円で正規に購入できます。