T2U音楽研究所~はてな置き場(旧:私を支える音楽と言葉)

T2U音楽研究所/臼井孝のはてな版です。

479・「うた」なのか「おと」なのか

組曲(Suite)

仕事のお付き合いでFacebookをしたり、CDショップ大賞の候補作のニュースを見たりしていて、最近思うことがある。それは、とかく音楽好きの人(それが高じて音楽業界にいる人)の多くは、「歌」が好きというよりも「音」が好きで、そこが自分との好みが大きくずれているということだ。

先日もこんなことがあった。タワーレコードにて中島みゆき組曲(Suite)』のフリーペーパーが置かれていて、そこには、全国の店員さんが彼女の最新作を推薦する為のPOPをコンペで作成し、その中での優秀作が掲載されているのだが、選ばれた10人前後のコメントが、ほぼ全員「演奏」や「曲調」について中島みゆきをプッシュしているのだ。私を含め多くのみゆきファンは、「歌詞」や「歌声/表現力」の魅力を強く感じているだろうし、その異なる視点は新鮮味もあったが、やはり「歌」と「音」のどちらで音楽を聴いているかがすごく違うのだなと思った

他方、実際のCDやダウンロードの市場は、「音」の魅力よりも「歌」の魅力でヒットするものが多い。つまり、中島みゆきに限らず、一般のお客様は「音」よりも「歌」を重視している人が多いのだ(無論、そこにヒエラルキーはない)。私自身は、たまたま今の感覚を大切にして仕事をしているだけで、自然と「人」と「音楽」がより繋がるので、それは心から嬉しい。

だから、これからも「生涯音楽素人」(?)として「うた」を大切にしていきたい。

478・中島みゆきコンサートレポート

先週の木曜日、中島みゆきのコンサート『一会(いちえ)』を見学させていただいた。以下、素晴らしい内容だったのをレポートをまとめてみたので、興味がある方に読んでいただければとても嬉しいです。

※いわゆるネタバレ満載なので、読みたい方だけお願いします。また、いつもとは異なり、編集部等の校正をスルーして出しているので、誤字脱字、表現の至らない部分は善良に読み解いて下さいませ。感想等は、私信でusutaka96 (アットマーク) excite.co.jpにお送りいただければ幸いです。それでは、よかったらお楽しみください♪

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2015年11月19日、中島みゆきのコンサート『「一会」Concert2015〜2016』が東京国際フォーラム ホールAにて開催された。会場には、中高年の方が多かったが、音楽フェスでよく見かけるファンキーなタイプではなく(笑)、ごく普通に暮らしている感じがした。それでも、ボジョレ・ヌーボーが解禁するかのように、この日を心待ちにしていることが、高揚した人々の顔から伝わってきた。 開演のベルが鳴ってまもなく波の音が聞こえ始め、演奏がスタート。緞帳が上がり観覧車や魚のオブジェなど、海沿いを想わせるセットを背景に、みゆきさん(以下、親愛をこめて「さん」付けで呼びます)が登場し「もう桟橋に灯りは点らない」を歌った。この日は空気が乾燥し、開演前に咳をしている人が多く、みゆきさんも大丈夫だろうかと気になったが、それはすぐに杞憂だと実感するほど、力強くも愛にあふれた優しいボーカルで絶好調だ。 1曲歌い終わって、いつものゆる〜いトークが始まり、会場が爆笑の渦に包まれる。本人いわく、このトークや選曲の“山あり谷あり” の構成も彼女のコンサートの大きな魅力だ。

今回は、3部構成とのことで、第1部のサブタイトルは〜Sweet〜、そして第2部が〜Bitter〜と本人から案内された。その“Sweet”を最も象徴するのが、3曲目の「ピアニシモ」だろうか。「大きな声と同じ力で歌ってください」と歌うその歌詞のように、艶やかで繊細な歌声が披露され、歌詞カードがなくともその言葉の一つ一つが心に浸透するように聞き入った。「樹高千丈 落葉帰根」は01年のアルバム『心守歌』収録のまさに大人を安らげるようなバラードで、心地よさに酔いしれたが、気のせいか、はたまた時代のせいか「私は独りが嫌いです それより戦さが嫌いです」という歌詞が、いつもより気になった。今から考えると、この歌が歌われたのも後半への伏線だったように思える。 静かに歌うばかりではなく、ドラマ『家なき子2』の主題歌として95年にミリオンヒットとなった「旅人のうた」では、実力派コーラス3人の力添えもあって、みゆきさんの力強いボーカルが会場中に鳴り響き、“人生の旅人”へのラブソングのようだ。
通常のアーティストであれば、新作メインの選曲になるのだが、一筋縄ではいかないのがみゆきさんのコンサート(微笑)。今回も8曲目にして、初めて2015年11月発売のアルバム『組曲(Suite) 』から歌われたのが、彼女を約30年間撮り続けている “動物写真家”のたむじんこと田村仁を歌ったという「ライカM4」。途中モデルさながらに茶目っ気たっぷりにポージングをしながら、パワフルなロックンロールを歌うみゆきさんは、いつまでも格好良い。そんな第1部は、88年発表の癒しのバラード「MEGAMI」で幕を閉じた。


 20分の休憩後、第2部がスタート。第1部の“Sweet”と第2部の“Bitter”を繋ぐように流れたのは、軽快なトランペット演奏の「ビター・スウィート・サンバ」。そう、オールナイトニッポンのテーマ曲として、あまりにも有名なあの曲だ。すると、DJブース風のセットからみゆきさんが登場。いつもの甲高い声で「オールナイトニッポン!」とコールした後、開演前にお客さんから募集したお便りを、ラジオ同様に面白おかしく読み上げていく。(ちなみに、現在も、「オールナイトニッポン 月イチ」として、毎月何週目かの日曜深夜に放送されている。)
楽しいおしゃべりが終わった後、舞台が暗転。今回のコンサートは“ツアー”ではなく、東京・大阪の会場に限定する分、音や映像などの演出にこだわった、とのことだが、まさにそれが体現されるようなステージだ。
第2部1曲目の「ベッドルーム」にて闇に誘うようなエレキギターの音が鳴り響いてからは終始、暗がりの中で一筋の光や怪しげな雲行きの様子が、みゆきさんの歌のメッセージ性をいっそう鮮明に浮かび上がらせた。
前半のアコースティックから激しいロックスタイルに変わる「友情」では、まるで世の中のやるせなさの中から、命の尊さを訴えるかのように、繊細な歌声が魂の叫びへと昇華する。これに呼応するように、今にも消えそうなほのかな赤い薄灯りも印象的だ。
この後に歌われたのが96年発表の「阿檀の木の下で」。みゆきさんから事前に「最近の楽曲ではないが、今の世の中に合うもので、島国に関する歌」として、婉曲的に紹介されたのだが、間奏で激しく聞こえる上空の飛行音や独特な音階から、誰もが沖縄の歌だと分かっただろう。
その間、みゆきさんが、白い巫女のような衣装で、祈るように、そして願うように歌う。歌の最後に、彼女が、赤い紐を左右の手でもてあそぶ姿は、国と県の間で揺れ動く現在の沖縄を象徴しているように思え、また紐の色から遠い昔に犠牲となった人々を想像した。(無論、これは筆者の解釈であって、彼女からの強制的なメッセージは何一つないことを申し添えておく。)
さらにメンバー紹介を経て最新アルバムから歌われた「Why&No」では、「訊けばいいじゃんいいじゃん「なんでさ」ってね」「言えばいいじゃんいいじゃん「ことわる」ってね」とワイルドに歌いきる。昨今、すさまじい勢いで変わり続ける日本について、“あなたはどう思うのか”、“このままで良いのか”と問いかけられるようだ。 第2部のラストは、NHK朝の連続テレビ小説『マッサン』主題歌の制作裏話をコミカルに話した後に「麦の唄」を披露。間奏にて、黒いコートから金麦色に輝くノースリーブの衣装に早替わり。『紅白歌合戦』での感動が呼び起こされる。真っ暗な中にただ一人、光輝くみゆきさんの姿に、どんな世の中になっても共に生きていこうという揺るがない意志を感じさせ目頭が熱くなった。


そして、アンコールを経て、92年のミリオンヒット曲「浅い眠り」から第3部“〜Sincerely Yours〜”がスタート。ここまで何曲も熱唱してきたのに、このダイナミックな楽曲を歌いこなし、それでいてラストの高音部分も切なくキマる。そして、最後に歌ったのが「ジョークにしないか」。「笑ってくれましたか」と優しく問いかけるようにピアニシモで歌い始め、そしてトークのないまま三方に深々と礼をした後、颯爽と立ち去っていく。まさに、彼女は“歌でしか言えない”言葉を伝えうる歌い手だとあらためて感動した。

それにしても、通好みな選曲にも感心する。最新アルバムから歌ったのは3曲のみ、他に『マッサン』主題歌の「麦の歌」や90年代のミリオンヒット曲は歌われたものの、カラオケで大流行している「糸」も、CMで使われている「時代」や「Nobody Is Right」もない。全20曲中、最も前の発表曲が81年の「友情」で、「わかれうた」や「ひとり上手」などそれ以前のヒット曲もない。ただ、自分が今の時代に伝えたいと思った楽曲だけを厳選したのだろう。 もっとも、2015年はデビュー40周年で、過去のヒット曲を詰め込んだベスト盤などあれば大ヒット確実なのに、このタイミングでリリースしたのが10曲オール新曲のアルバム『組曲(Suite)』という事実を鑑みれば、こうした選曲の方が自然にも思える。12月9日には、『私の子供になりなさい』以来約17年半ぶりとなるアナログ盤も発売される。彼女のこだわりがより伝わってくるようで、こちらも楽しみだ。

今回の若いアーティストにも負けない圧倒的なパフォーマンスに、これからも、中島みゆきは私たちの“ヘッドライト”そして“テールライト”として、活躍し続けることを確信している。

文:臼井 孝(T2U音楽研究所)

セットリスト

第1部〜Sweet〜
M1 もう桟橋に灯りを点らない 1994
M2 やまねこ 1986
M3 ピアニシモ 2012
M4 六花 2001
M5 樹高千丈 落葉帰根 2001
M6 旅人のうた 1995
M7 あなた恋していないでしょ 2012
M8 ライカM4 2015
M9 MEGAMI 1988
(休憩)
第2部〜Bitter〜
M10 ベッドルーム 2012
M11 空がある限り 2015
M12 友情 1981(2コーラス目より)
M13 阿檀の木の下で 1996
M14 命の別名 1998
M15 Why&No 2015
M16 流星 1994
M17 麦の唄 2014
第3部〜Sincerely Yours〜
M18 浅い眠り 1992
M19 夜行 2001
M20 ジョークにしないか 2014

477・他人の街(工藤静香)

Rise me

Twitterをしていると、こんなことがよくある。私が、ある情報やデータを流したとする。すると、何度もリツイートや「いいね」登録をしているようだけれど、決してフォロワーにはならない、という人を見かける。

その時、私の中にある感情が生まれる。

それは、リアルな人間関係でも以前から生じていた。例えば、中島みゆきファンの友人に、工藤静香中島みゆきの曲を歌っているよと教えると、その曲は聴くけれど、それ以外の工藤静香の曲は一切聴かない、と言われた時など、結局広がりのない音楽ファンに出会った時だ。

別に正義とか道徳とかを振りかざす気などさらさらない。ただ、少しだけ淋しく感じる瞬間がある。いや「淋しい」というほど切なくはないな。少しだけ、ほんの少しだけ「情報」じゃなく「人」を感じて欲しいなと思うことがあるのだ。

こういう喜怒哀楽が明確じゃない感情って歌にしづらいな〜と思っていたら・・・あった。それがタイトルに書いた工藤静香の「他人の街」だ。93年に工藤静香が発表したアルバム『Rise me』の1曲で、中島みゆき作詞、後藤次利作曲。(ゆえに、工藤静香My Treasure Best 中島みゆき×後藤次利コレクション』に収録されています〜。)

歌詞はこちら

発売当時は、アルバムの中の1曲で、ラブソングでもないし、私が好みがちなベタなバラードでもないし、なんだかよく分からないな〜、同じアルバムオリジナルでももう1曲のラブバラードの「そのあとは雨の中」の方が心に響くなぁ、とあまり深く聴かずにいたのだ。しーちゃんファン&みゆきさんのWファンであるにもかかわらず。(ごめんなさい!)


「それは書かれるほど むなしくはない」・・そうそう、別に誰かを責めようとも思わない。ただ
「人から人への距離が少し遠い」・・そう、サクサクと情報だけ集められる感じが、「少し遠い」、その程度だ。
でも、それを批判するのでもなく「やさしすぎて臆病になった」と自分に言い聞かせるように理由を探す。この部分の解釈は人それぞれだろうけど、私自身は「あまりに自分が構われずにいること、それは相手の優しさかもしれないけれど、誰にも話しかけられなくて、一瞬、街が怖くなった」くらいに受け取った。
そして「ただそれだけ」と結ぶ。そう、本当にただそれだけなのだ。本来、歌にもならないほどの微々たる感情だ。

いかにも21世紀にあてはまりそうな状況を20年以上も前から言い当てていたなんて、やはり中島みゆき恐るべし!みゆきさんはよく、「時代が取り残したものを後から拾っていく」というけれど、時々、時代を随分と先回りしている気がすることもある。これは、単に時代が繰り返しているということなのか。

ということで、どこかで興味を持ってくれたら嬉しい、とてもささやかだけど、現代だからこそ胸に響く歌だ。

476・「糸」VS「ひまわりの約束」年代別カラオケ人気

日頃から色んな音楽チャートを舐め回すように見ている私だが、2015年8月あたりから、カラオケチャートにて、中島みゆきの「糸」と秦基博ひまわりの約束」が1位、2位のデッドヒート攻防戦を続いているのが気になっていた。確かにどちらもテレビ番組等で取り上げられる度に上昇するのだが、それにしても一体どんな年代の人が歌っているのだろうか、と。そこで、JOYSOUNDの公開データを使って調べてみた。

厳密には、男女差もあるのだが、意外にも接戦なのは30代・40代だけで、10代・20代はドラえもん効果も大きいのか秦基博の圧勝、50代以上は元々のアーティスト認知の高さからか中島みゆきの圧勝。グラフだけ見ると中島みゆきが有利に見えるが、全年代で僅差になるということは、10代・20代のカラオケ頻度が多いからだろう。

また、今年になって秦くんがNHK『歌謡コンサート』とか『チャリティーコンサート』とか、明らかにエルダー向けに打って出ているのだが、今後何回も重ねていけば、グラフの右側がググっと立ち上がって、秦基博の圧勝となりそう。

方やみゆきさんの方は、現状は満年齢23歳あたりから伸びてくるのだが(やはり社会の荒波に揉まれて初めて中島みゆきの魅力が分かるということでしょうか笑)、日テレ土曜9時あたりのドラマ主題歌があれば、このグラフの左側の認知もググっと伸びそうです。嗚呼『家なき子』再び(←懇願)。

という感じで、データひとつ取っても、あれこれ世の中が見えて面白いのです♪

475・それは「歌」が好きだから

私の歌?リスペクト?

先日、あるライターさんと2人でカラオケに行った時のこと。私の歌を聞いた彼が感心しながらこう言った。

「いやぁ、臼井さんて、ホント歌が好きなんですね。いつも仕事には“愛”が必要って言っている意味が分かりました!!」

勿論、リップサービスも存分にあるが(笑)、彼の言葉を聞いて、私の中で今までの音楽に関する疑問が急激に氷解したような気がした。

時に「アイドル評論家」のカテゴリーに分類される私だが、現実はそう呼ばれるには程遠く、全曲を聴いているのは、河合奈保子岩崎宏美中森明菜工藤静香をはじめとして、個性的なボーカリストの数人程度に限られている。それは、歌が好きだからだ。

そのアイドルについて、以前Twitterで「歌唱力もダンスもコントも握手会の神対応も出来るアイドルなんている訳ないじゃん」とある現代アイドルファンから反論されたが(私自身は、昭和のアイドルと現在のアイドルの定義が異なると呟いただけだが、彼の中では「今のアイドルは歌が下手」と非難めいて受け取ったらしい)、そもそも、私は好きなアイドル出身歌手に、ダンスやコントのスキルはさほど求めてはいない。(中森明菜が突如握手会を開いて、愛想を振る舞われても逆に「何があった??」と、こちらが心配してしまいそうだ(笑)。 それも歌が好きだからだ。

そして、近年の女性アイドルグループも、実際は全否定のわけがなく、好きなグループとそうじゃないグループがいるのだが、よくよく考えてみたら、前者は歌手志望で結成されたグループで、後者は女優・タレント志望を中心として結成されたグループという違いがある。(勿論、AKBグループの中でも、NMB48山本彩はもっと評価されればと思うように例外のメンバーもいる。)これも、私が歌が好きだから、潜在的にそんな振り分けをしていたのだろう。

他にも、好きなバンドのタイプ(要は演奏音でボーカルが聴こえないのは苦手)も、女性シンガーソングライターの中で好きな人(制作力に引けを取らぬ歌唱力がある人が好き)も、さらには『TEAROOM☆NAOKO』のMARUさんのところで取り上げていただいた10年前の『名曲発掘!ジュエル・バラッズ』なんてコンピの選曲基準も、すべて「歌が好きだから」に集約される

私はなんと単純な人間だろうか(笑)と呆れるほどにスッキリした。私がどこかで何かを書いたり語っているのをご覧になった際は、「歌が好きだから」というフィルターを通していただければ嬉しい。そして今後も、そんな人の言葉や想いを拾い上げていきたい。

474・柏原芳恵『アリエス』収録曲解説より

アリエス

近年、柏原芳恵のEMI時代の4枚のCDを入手した。『アリエス』『愛愁』『Lover's Sunset』『YES,I LOVE YOU(配信されず)』のうち、私は『愛愁』が断然好きで、スタッフが彼女をポスト“テレサ・テン”としてしっかり育てようとしていたことがよく分かる。しかし、セールスが激減したように、やはりこれはアイドルファンにはあまりに地味で重いと感じることだろう。アイドルファンにも演歌・歌謡曲ファンにもそっぽを向かれた名作で、まさに、音楽と先入観/イメージの問題の根深さを実感する。

その点、その前作『アリエス』は全作詞・阿久悠で言葉の重みを感じさせつつも、音楽的にはロックからニューミュージック、アンビエントなポップスとかなり挑戦しているのが興味深い。このアルバムには、全曲のライナーノーツがなぜか“英語まじりのローマ字”という不思議な言語で書かれているのだが、ちょっと読みづらいので日本語に直してみた。以下、記載してみる。 (※決して私の感想そのものではありませんので、ご注意ください!)


美少女党阿久悠/林哲司/萩田光雄
今回のアルバムの中で最もロック色の強い楽曲。彼女のこれまでの歌の中では、比較的重めのリズムだが、乗りに乗って歌っている。彼女の胸の鼓動が直接伝わってきそうなLIVEな仕上がりとなっている。

くちびるかんで純愛阿久悠/林哲司/萩田光雄
軽快なサウンドに乗せて、生き生きとした彼女のボーカルが聴こえてくる。一つの言葉の五感を大切にした歌が、甘く、時には苦しく、我々の耳に入ってくる。グロッケンとマリンバのシンセがリズミカルで歯切れよく、効果的に使われている。

夏の夜は一度ほほえむ阿久悠/Frankie.T/萩田光雄
誘惑的なシンセのブラスや、挑発的なギターに乗せて、激しく躍動的な彼女のボーカルが魅力。彼女の荒々しい息づかいまでもが伝わってくる。シーケンシャルなシンセのフレーズが彼女のボーカルと共に耳に残る。

ストレンジャー阿久悠/林哲司/萩田光雄
 パーカッションが細かくリズムを刻み、空想的なムードに浸りながら、遠い所に行った気分になれる涼しげなサウンド。 彼女の夢見ごちなボーカルとコーラスが、そんな気分をさらに高めてくれるとびきり上等なリゾート・ポップス。

シャワーの下で阿久悠/萩田光雄/萩田光雄
シンプルなピアノの伴奏に乗せて始まる、彼女のか細い、切ないボーカルを聴いてほしい。 心の高揚を敢えて抑えた、このボーカルに我々はむしろ大きな気持ちの揺らぎを感じざるを得ない。

不良の掟阿久悠/Frankie.T/船山基紀
言葉をぶつけてくるような、いわゆるツッパリ風の歌い方に、これまでの彼女を知る者は驚くかもしれない。繰り返される彼女のボーカルと、コーラスとの掛け合いが聴きどころのひとつ。 サンプリングのドラムの音が力強く、サウンドの大きな要となっている。

A・r・i・e・s阿久悠/林哲司/船山基紀
触れるだけで壊れてしまいそうなそんな心情をタイトに、そしてソフトに歌い上げた楽曲。特に「アリエス」のハイトーンが魅力的。ダルシマーの切ない響き、ストリングス−シンセの切れのある音色がポイント。

ガラスの鍵阿久悠/船山基紀/船山基紀
スピード感あふれるバックに乗って、彼女の自分自身に言い聞かせる様が、一瞬の隙もないボーカルに反映している。彼女の持つ心の痛みが、そえゆえに何倍にも強まって伝わってくる。 サンプリングのガラスの音が、サウンドエフェクトとして使われている。

私のすべて阿久悠/林哲司/船山基紀
 サビの一連のフレーズの歌い方が聴きどころ。全体に広がるソフトなブラスシンセが優しく、彼女のボーカルを包んでくれている。 地味ながらも今後の彼女の方向性の一つを示した楽曲。

最後のセーラー服阿久悠/林哲司/船山基紀
サビの済みきった美しく伸びたフレーズが特に印象的。それを活かすための前半の丁寧な歌い回しが好感を持てる。戸惑う女の子の気持ちを表現するには、十分過ぎるほどだ。
シンプルで無機的とも言えるサウンドによりかえって、彼女の歌から詩心が伝わってくる。

参加ミュージシャン:
ドラム:岡本郭男、宮崎まさひろ
ベース:美久月千晴、富倉安生、
ギター:松下誠角田順、今剛
キーボード:山田秀俊、オガワラルミコ、エルトン永田(一郎)、倉田信雄
ストリングス:ジョー加藤グループ
コーラス:木戸やすひろ、比山貴咏史(清)、平塚文子、広谷順子
シンセサイザー・プログラミング:助川宏、梅原篤、船山基紀、坂下ヨシマサ、伯耆弘徳

作家陣のみならず、ミュージシャンも超豪華。意外な注目ポイントは現在、算命学者や哲学者として活躍しているという伯耆弘徳氏が4曲で参加している事。しかも、楽曲ごとに(ほうき・まさのり/ひろし/ひろゆき/ひろのり)と記載が異なるのも意味深。(もしかして4兄弟とか?)

ともあれ、じっくり聴けるポップスで、彼女のアルバムの中でもTOP5に入りそうなほどコンセプチュアルな作品なので、どこかでチェックしてみては?ちなみに、ダウンロードでは1500円で正規に購入できます。

473・私が好きな河合奈保子元気タイム

Calling You

注:以下の文章は、誰かを批判したり、誰かに問題提起したりする為のものではなく、あくまでも私の想いを綴っているだけなので、そういう人もいるのだと穏やかに読んでいただければ幸いです。

8月に発売されたファン投票による2枚組ベスト『私が好きな河合奈保子』を一通り聴いた。選曲も、さすが可憐にそこに佇んでいるような昭和のアイドル、そしてその延長のエレガントなシンガーソングライターというイメージにピッタリだ。

しかし。しばらく聴いていて、ちょっとムズムズしてきた。いない。私の好きなスパーク系の奈保子が少ないのだ。私自身彼女のLIVEの中でも“奈保子元気タイム”が大好きだったせいか、彼女がLIVEパフォーマーとしてハイレベルであることがここからはさほど感じられない気がした。

ということで、そのフラストレーションを解消すべく、私の好きなマイナー調のハードポップ路線多めで、気分をアゲる為に作ってみた。(★は『私が好きな河合奈保子』収録曲、だから皆無という訳ではない)

『私が好きな河合奈保子元気タイム

1.エスカレーション(シングル)★
2.THROUGH THE WINDOW(シングル)
3.MANHATAN JOKE(シングル「デビュー」両A面)
4.ちょっぴりパッショネイト(AL『スカイ・パーク』)
5.桜の闇に振り向けば(AL『JAPAN』)★
6.I'm in Love(シングル「ラヴェンダー・リップス」B面)
7.ジェラス・トレイン(シングル)★
8.緋の少女(AL『スカーレット』)
9.わたしは旅人、あなたは罪人(AL『Calling You』=画像)
10.UNバランス(シングル)
11.Twenty Candles(AL『It's a Beautiful Day』)
12.唇のプライバシー(シングル)★
13.今日を生きよう(AL『ブックエンド』)
14.コントロール(シングル)
15.モスクワ・トワイライト(AL『さよなら物語』)★
16.クラブ・ティーンネイジ(AL『スカーレット』)
17.冬のカモメ(AL『NINE HALF』)
18.美・来(シングル)

無論、これら全てがベスト盤向きの楽曲とは思えないし(笑)、また私自身が好きな彼女の楽曲はこちらにも綴っているように、初期の可愛い楽曲も壮大なバラードも多数ある。けれど、彼女の音楽をよりリアルに楽しみたいな〜と思う時、こういう選曲が私の中でピタリとハマるのだ。

自作期になってからも「雨のプールサイド」や「緋の少女」から「今日も生きよう」などを歌っていたことから、本人もこういったハードポップ路線も自分の音楽の一部だと感じていたのだろう。(だから無理矢理やらされていた訳でもないでしょう。)

彼女に限らず「アイドルはアイドルらしい曲だけ歌っていればいい」「フォーク出身歌手はロックには手を出すな」など、とかくパブリック・イメージ通りのものしか受け付けないリスナーが多いのも分かる。しかし、そんな人にとっては、30歳手前までバリバリの理系で突き進んできた私の、音楽業界でのこの18年間は「クズ」みたいなもので(笑)、やはり自分の人生が否定されたようで悲しくなってくるのだ。

良いものは良い。“需要なき供給”と片づけるには、あまりに熱量や完成度の高い楽曲群を聴いていると、今日も“道なき道”を進んでいこうという気にさせられる。やはり、私が彼女の楽曲から学んだものは凄まじく大きい。