T2U音楽研究所~はてな置き場(旧:私を支える音楽と言葉)

T2U音楽研究所/臼井孝のはてな版です。

2・消されても名前が残る仕事

 私は約5年半の間、音楽専門の広告代理店に勤めていました。CDには、主に制作担当のディレクター、宣伝担当のプロモーターのチーフなどのレコード会社の方と、アーティストのマネイジメントサイドの方のお名前とあとはタイアップ先の企業名がクレジットされる程度ですが、実際には、宣伝のプランニングの際に、そのマーケット需要を調べたり、広告の原稿や映像素材などを進行したり、更には媒体へのプロモーションをサポートしたりという仕事もあります。

 私がその代理店に入社した時に、会社の人たちはこんなに頑張っているのに、なぜレコード会社の人たちはCDに名前を載せてくれないんだろうと思っていました。それは、時にはそのアーティストの運命を変えるほど斬新なアイデアが代理店から出る場合もあるからです。でも、その一方でお金をいただいているという時点で、そのアイデアはレコード会社のものだという考えも分かるし、単に言われた原稿を動かしているだけ、といった場合もありますし、何より自分はそんなにオリジナリティーのある仕事もしてなかったし、そんな偉そうなことは言えませんでした。

 ですので、それは逆に大きな目標だと思い、以来、なるべく先方が、本当に感謝して真の意味で「Special thanks to」と書きたくなる仕事をしようと思いました。

 そんなある日、あるメーカーから、あるタイアップ曲の傾向について調べて、と言われて自分で言うのもなんですが結構“目からウロコ”的な資料が出来たのです。で、先方もかなり喜んでくれ、今回は日頃の広告の付き合いがあるからサービスで、と差し上げたけど、これは後々自分の仕事に繋がるかも!?みたいに思っていました。しかし、数日後その会社に行ってみたら、私が行った仕事なのに私の名前が消されてそれを依頼した人の名前が上から書かれていました。タダで仕事させておいて自分の手柄にするとは!!!みたいに憤慨しました。勿論、日頃の付き合いありきで依頼されたことですから、ここでアイデアを取ったのか、タダで差し上げたのか、というのは微妙なラインで、何よりそれを言い争っても、会社としては広告をいただいているのですから、反論できない弱みがありました。

 その時、私は、自分の仕事が別の名前にすりかえられても、この人がやったとは絶対に思えないような仕事をしたい、

たとえ名前が書いてなくても名前が書いてあるような仕事をしよう

と心に誓いました。

 その時は、確かにツライ経験でしたが、その時の反動が自分の大きな原動力になっています。そういえば、数年前、浜崎あゆみさんがご自分のネイリストについて「○○ちゃんのネイルは、名前が書いてないのに、他の雑誌で見てもすぐ分かる。ああいうのってカッコいいよね。」とインタビューでおっしゃっていて、彼女はスタッフレベルまでよくモノを見てるなって感心した覚えがあります。

 どんなに優れた修正液で名前を消しても、消えない名前。また、名前が書けない仕事でも、名前が載っている仕事。私は、そんな生きる証を今後も増やしていきたいです。