T2U音楽研究所~はてな置き場(旧:私を支える音楽と言葉)

T2U音楽研究所/臼井孝のはてな版です。

60・本質はオリジナルアルバム

 音楽業界に10年以上足を突っ込んでおきながら、倉庫に10,000枚以上のCDを持っているとか言っておきながら・・・遅ればせながら山口百恵の全オリジナル・アルバムを聞いた。いや、今まで83年に出た4枚組10,000円の全集を借りて聞いたり、遠い昔、実家で姉が何度となく引退LIVEのビデオを繰り返し観ていたのを横で見てたりしたので、「あー、なんとなく聞いたことあるなー」というのが多かったのだが、『MOMOE PREMIUM』が03年に発売され、手元にあったにもかかわらず、殆どまともに聞いたことがなかったのだ。


 それは、山口百恵が嫌いというわけでは全くなく、あの神格化した評価が好きじゃなかったからだ
 全部持っている人が、どこで覚えたのか「山口百恵菩薩論」とか「山口百恵超人説」とか平然と語るし、こちらが音楽を聞く前から「引退しなかったら、これ以上に名作が生まれていたはず」だとか「駄作が多いとしても、それは1年に何枚も出していたから」だとか、「歌だけじゃなく、芝居、TV出演、雑誌、『蒼い時』の執筆(!)とかトータルで才能を見るべし」だとかマジモードでエクスキューズばかりを添付したがり、しまいには “これが分からない人は、音楽が分かっていない人” という烙印を押されそうな勢いで説きだすので、まともに聞く気がしなかったのだ。

 しかも、例えば私が好きな河合奈保子の音楽の場合、彼女が水着の写真集やイメージビデオを大量に出しながら(もちろんTV出演もこなしつつ)、年に3〜4枚の歌唱力みなぎるアルバムを発表したことを上記の“百恵シード権”を適用した上で『さよなら物語』とか『9 1/2』とかを評価したら、それこそシンガーソングライター全員をぶったぎるほどの名作ということになると思うが、そういう方に限って、聞く前から「それとこれとは別」なんて聴く耳を持たないから、なんだか余計にそういう空気自体眉唾だと思ってしまい、ずっと封印していた。


 しかし、先月、仕事で必要に迫られ、これも運命(?)だと思い、山口百恵のアルバム全曲通して聴いてみた。

 聴いた結果。・・・上記のような雑音抜きにして、素直に良いと思った。1枚のアルバムに名曲をガッチリ詰め込んだというよりも、1枚の中で、様々な楽曲に果敢に取り組んでいるスタンスに好感を持った。特に、普通、アイドルが、またニューミュージック系のアーティストですら歌にしないだろうというごく日常のテーマやはたまた妄想を極めたテーマを(おもに阿木耀子が)大胆に盛り込んでおり、その大半を彼女が自分の作品として消化しているのが興味深かった。後期のサウンド志向からは、あぁ、ロック・シンガーとして、確かにこの後が面白そうだな、という余白を感じられて良かったし、何より、確実に成長していく表現力にドキリとさせられた。カッコいい!


 うーん、やっぱり私には情報ってそんなに必要ない
特に、反論の余地がないような雰囲気やブームほど受け付けないのだ。と同時に、私は、HP上ではなるべく「買う」と「買わない」の間にいる人をそっと後押し出来るものを意識しているつもりだが、褒めすぎるとかえって買う気も失せるのかなと反省した。

 ともあれ、こういった面白い歌い手がいたのかという理解が深まったことが嬉しかった。やっぱりアーティストを知るにはオリジナル・アルバムを聞かなきゃね、と実感。
(→そして、紙ジャケ復刻CDをそっと差し出す私(爆))