T2U音楽研究所~はてな置き場(旧:私を支える音楽と言葉)

T2U音楽研究所/臼井孝のはてな版です。

443・誰も邪魔してはならぬ

おとぎばなし-Fairy Ring

先日、ある中堅〜ベテランアーティストのLIVE会場のアンケートを取りまとめて分析していたところ、数人のファンの意見で

ファンから1ワードずつ募集して、それを組み合わせてファンへのメッセージソングを作ってほしいです!

というのが見られ、絶句した。

いや、ベスト盤の選曲やコンサートの曲目をファン投票を“参考に”決める、というのならまだ分かる。でも、それでも完成度を考慮したいというアーティストが100%鵜呑みにする必然性はないだろう。

また、若手アーティストでそういった募集を見たこともある。それはそれで結構だが、ヒットを連発する高品質アーティストに対してスタッフでもない一ファンが介入するなんて、なんと図々しいのかと思った。

それとも、例えば中島みゆき作品なら「地上の星」とか「麦の唄」とか「空と君のあいだに」とか書く自信でもあるのか?松本隆の「木綿のハンカチーフ」や「赤いスイートピー」、「硝子の少年」のクオリティーが出せるのか。ちなみに、松本先生は藤井隆に「じゃんけん」というフレーズだけ変えてもらえないかと言われ、直すのを断って作品ごと一旦ボツにしたというエピソードがあるほど、一つの言葉を紡ぐのに魂を削っているのだ。それとも、クオリティーが低くても、共感できればそれがベストとでも思っているのか?勘違いも甚だしい。

無論、ベテラン・アーティストが誰にも注意されずマンネリの“裸の王様”になっていくという危険性もある。でも、だからと言って、それは信頼できるスタッフが注意していくことであって、ファンから広く公募するレベルではないだろう。いくらTwitterで繋がっていようと、またネットですぐ自分の意見が公開されようと、アーティストとファンは決して同じ立場でありえない。


そういえば、中島みゆきの02年のアルバム『おとぎばなし』は、私が彼女の作品の中で二番目にあまり聴かない作品だが、その一因として「紫の桜」をあまり聴きたくない、というのがある。みゆきさんの演劇的な歌い方が苦手なのではない(それを言ったらキリないし(笑))。終盤の“財団ヤ○ハの人々”によるコーラスがあまりに覇気が感じられなくて聴いていてイライラするのだ。しかも、何かで、スタッフの一人の方が「コーラスに参加しちゃいました!」と嬉々として語っていたのを見たのも尚更にイライラしたのかも。上手下手というよりも、みゆきさんとの本気度の違いがあまりにひどかったのだ。


さらに記憶を遡って、88年のジャッキー・チェン河合奈保子のデュエット・シングル「艶情夜曲」(「愛のセレナーデ」広東語バージョン)の購入者プレゼントとして「あなたもジャッキーのコーラスに参加しよう!」みたいな告知があったが、これも、

「えっ?能力を問わないレベルで良いの??」

と、当時かなり疑問に感じたものだ。私にとってコーラスとは、EVEや伊集加代子、木戸泰弘、比山清レベルだと思っていたからかもしれないが、“レコーディング見学”なら分かるが、“参加”までするなんておこがましい。(いや、もしかしてレコーディング前に1か月合宿などで猛特訓していたかもしれないけれど(笑)。)ジャッキーは音楽が副業だからその程度でOK、というならばスタッフの志は低すぎやしないか。


とにかく、命を削る想いで作品を生み出していくアーティスト達を、ファンである私たちは邪魔してはならないと思うのだ。勿論、これはあくまでも個人的見解で、共感がキーワードとなる世の流れと異なるのかもしれない。

私も素人あがりの分際で、アーティストものの選曲や監修もやっているけれど、それでも可能な限りアーティスト本人の意見を引き出す為の“たたき案”を作ることを目指して日々取り組むようにしている。毎度、反省点は山ほどあり、いつまで経ってもゴールがない。。。。けれど、今後も、お客様目線も大切にしつつも、その点はブレないようにしていきたい。