T2U音楽研究所~はてな置き場(旧:私を支える音楽と言葉)

T2U音楽研究所/臼井孝のはてな版です。

135・顔のない世界だとしても

 最近、本家サイトアクセス解析でとみに増えているのが「アーティスト名(当然、最も多いのが岩崎宏美) (アルバム名) 無料」「(曲名) MP3」というキーワードによる検索なのだ。つまり、タダでダウンロードできるサイトを探して、うちにたどり着いているという訳。勿論、その音源を置いていないので、訪問者は足早に立ち去っているようだけど、その数の急増ぶりからも「タダ」「違法」って急速に蔓延しているんだなと実感する。時に「今なんてCDなんて誰も買わず何でもダウンロードだよ」って諭されることがあるけれど、彼らの発言は、その大半が作り手に還元されていない現実を知ってのものだろうか。それとも、流行を着飾るスタイルに酔いしれているだけだろうか。(当然ながら、ここでは有料ダウンロードを追及しているのではないのでお間違えなく。私自身iTunesやMoraの有料ダウンロードで助かった経験も数回あります。)

 さらに驚いたことに、その“無料”フル音源を、異国のサイトで試しにダウンロードしてみたところ、格調高いストリングス洪水や、強烈なバッキングボーカルや、ベコベコベコっとトリッキーなベースなどが聞こえず物足りないなーと思いつつも、しばらく経ってメインのボーカルと目立った演奏だけ聞くには物凄く適していることに気が付いた。つまり、通勤途中や家事・育児など“ながら作業”中には、こっちの“無料”の方が聴きやすそうだ。特に、カバー曲やカバーアルバムのように、ボーカリストとしての力量を楽しみたいという時は、断然“無料”が良いかも・・・・なんたること!!!一所懸命に真心こめて労力かけて作っても、無断で無料で放出された音源が一番聴きやすいなんて。なんだか途轍もない徒労感に襲われた。今は「基本コースは無料、もっと使いたい方は有料コースへ」というのは、クリス・アンダーソンの本以来、常識だと言われるけど、でも(検索したりダウンロードしたり変換したりの数十分という)時間を惜しまずベストなものが見つかれば、果たしてそこから何千円出す気になれるだろうか。「だから握手券を付けるのが一番手っ取りばやいんだよ」と物知り顔で、誰かに諭されたような気がした。

 でも、この無料システムには、手間ひまをかけるだけでなく、“心を失くす”必要もある。つまり、アーティストや作り手を思いやれる環境を維持できれば、正規でのダウンロード購入も続くはずだし、またもっと好きになれば、ジャケットやらブックレットやらその形としてアーティストの作品を購入することも考えられるだろう。そのために、私ができるのは、今後も、ファンの人たちが欲しいものを自分の力の限り実現しようと努力し(勿論、それでもなお権利上の問題、コスト上の問題で実現せずにお叱りを受けるが)、ファンの人がそのアーティストや楽曲を好きでいてくれるようなものを書いたり、企画したりし続けるしかないだろう。そうでなければ、私がやっていることは、“万引きのお手伝い”でしかない。

 顔が見えないことで、心までないかのような発言も目の当たりにする今日。だけど、そのモノに心をこめることで、見えない顔が喜んでくれることを、楽しんでくれることを予想して、今日も仕事をしていたい

 こんな私でも、問題なく生かせてもらっているので、レコード会社の方にも、メディアの方にも、何より音楽ファンの方にもあらためて御礼申し上げます♪