T2U音楽研究所~はてな置き場(旧:私を支える音楽と言葉)

T2U音楽研究所/臼井孝のはてな版です。

427・望みは「人」と見られること

miss M

個人事業をしていると、業務の遂行だけじゃなく、仕事を取ってきたり、その報酬を交渉したり、場合によっては取り立てたりする必要がある。本当は分析や企画だけしていたい私には、ちょっとストレスでもあるのだが、重要な時間なので心して臨んでいる。

それで、この交渉の際、「あなた儲かってるじゃないっすか〜」と笑いながら、時にひどく安い報酬を提示してくるクライアントがある。確かに私の場合、執筆は主たる収入源ではないので、最悪の場合なくても生活はできる(あくまでも現段階ですが)。しかし、もしそんな悪条件を飲んでしまっては、同業の他のフリーランスの人たちにまで影響しかねないし、本当に食べていけない人が出てしまう。だから、そこは可能な範囲で別のサービスを付けるなどして、報酬をできるだけ従来から下げずに済む方向を、クライアントと一緒に模索するよう努めている。

そういえば、故・やなせたかしさんに数十ものキャラクターをタダでデザインさせた地方自治体の話が問題視された。依頼した公務員は自分の給料も「どうせ流れ作業でしょ?」と言われてタダにされたらどう思うのだろうか。きっと、「やなせさん、儲かっているんでしょう?」と言ってタダ働きをけしかけたんだろう。でも、そんな事がまかり通れば、やなせ氏よりも無名な数多のイラストレーターまでタダ働きになってしまうし、挙げ句の果ては「宣伝してもらってると思って、タダでやれ」なんて恩着せがましい事を言われかねない。(ちなみに、私は毎日新聞の女性記者にこのような恩着せがましい事を言われ2回目から毎日新聞からの取材は一切断っている。後にも先にも、タダで1時間以上の電話取材を強行したのは毎日新聞だけだ。ちなみに、他紙のお仕事はいずれも複数回続いている。)

また、震災復興イベントへの出演依頼が殺到していたアーティストのマネージャーさんから、本人の交通費や食費が自腹なのは覚悟するとしても、マネージャーやミュージシャンなど同行するスタッフの人件費がなく、実は見た目以上に凄い赤字になっていると嘆いておられたのを聞いて同様に思った。

こうした状況で、私が欲しいなと思うのは、お金じゃない。いや、正直な話、お金も欲しいが(笑)、もっと欲しいのは、「人を人として認める心遣い」、つまりこちらの立場からすれば「人権」なのだ。その凄まじく低い金額を提示してくるクライアントや主催者さんが、こちらに対して、人として頑張れるモチベーションをあげてほしいのだ。そうすることで、“安かろう悪かろう”ですまそうなんてヤッツケ仕事はしなくなるし、結果的に依頼者の満足度も高まって、その後も、売り上げなり評判なりが高くなる方向にみんなが頑張るのでwin-win-win・・・の連鎖が起こっていくのを見届けるのが嬉しい。

そんな感じで、そこに、そしてその向こうに「人」が生きていることを忘れずに過ごしたいものだ。

こうしたことを考えるときは、いつも中島みゆきの曲を思い出す。『miss M.』収録の「忘れてはいけない」が近いだろうか。私の場合、大切なことはいつも音楽が教えてくれる。(微笑)